Aマンションの購入希望者でしょうか、内見に来られた若い夫婦は共用部をキョロキョロ見渡しながら「築年数の割にはまあまあだね、床なんかよく掃除が行きとどいてるし明るい感じだね・・ 」と、大規模修繕工事で貼り替えたばかりの床シートを見て夫婦で互いに肯定し合っています。
この夫婦は数か月の間、土日のほとんどを使って数多くのマンションを亡者のように巡り疲れ果てています。
購入の決め手になる理由(あれダメ、これダメとおせっかいなアドバイスをする周りへの言い訳)だけを探しているという精神状態かもしれません。
うん千万円の買い物には冷静さが必要ですね。
大規模修繕工事が完了したら、待ってましたとばかりにマンションを売りに出すということがよくあります。
売る側は何故か直前まで全くその気配を見せないのが特徴です。
この場合、建物はキレイになるので成約率も高くなりますが、見落としもあります。
それは何かというと、このAマンションは大規模修繕工事の実施のため限度いっぱいまで工事費を借入れしました。
今後10年間で借金を返済します。当然、貯金はありません。
大規模修繕工事が終わって、共用部分が整備された自宅を希望値で売り抜けたBさんには、この借金を返す必要はありません。言い方を変えると、新しくこの部屋を購入したCさんが借金を背負い修繕積立金という名目で返済することになります。
Cさんは購入後に事情が判ると「えーっ!」という気持になるかもしれません。
同じお金でも「貯蓄している」か、お金を共用部分の修理整備やグレードアップにより「資産価値を上げた」かの違いですが、購入前にはこれまでの修繕履歴や、今後の大規模修繕工事の時期は把握しておくと不安は少なくなります。
不動産仲介業者は、売買に不利になることはロクに説明せずに、契約時の「重要事項説明を受けました。」というところにハンコもらえば終了、後でなにかあっても、ちゃんと説明しましたと突っぱねます。
実際にあった事件です。理事長は、大規模修繕工事の実施にあたり金融機関から融資を受け、自分の知り合いの建築業者に工事を発注しました。他の理事が推薦する業者の方が安価であったにも関わらず理由をつけてそれを却下しました。
工事は1階に専有部分がある理事長宅の玄関ポーチを勝手に拡張し、その床タイルを総貼り替え、玄関扉と門扉、その周辺照明器具の交換等の必要と思われない工事が行われ、他の組合員が無関心なことをよいことに、理事長主導の工事は完了、その直後に理事長宅は売却されました。
管理組合に多額の借入金を負わせ、自宅の売却が有利になる工事をしたのは間違いありません。
さらに手抜き工事を行った業者を追求し、詳細不明(判例集記載無し)ですが、業者から理事長への不正なリベートがあったことが判明しました。
管理組合は旧理事長の不正を訴え、勝訴したものの、旧理事長は破産状態であるために損害金の回収は捗らず、さらに工事業者も逃散していました。
話は大きくそれましたが、購入の目的で多くの物件を見たときは、些末にこだわり何が重要なのか麻痺していることがあります。
修繕積立金の繰越金残高とそれを戸当たりに割り出した額をしっかり確認、他物件とも同じ方法で割り出して比較検討しましょう。
当マンション管理士会では、首都圏であればマンションの内見等に同行してアドバイスや、各書類の確認、注意点などのサポートをさせていただいています。
人生に何度もない大きな買い物のお手伝いができればと思いますので、ぜひご利用下さい。
挿絵に使わせていただいたのは、シスレーの作品です。普仏戦争で援助を受けていた父親が破産、当時は彼の絵はなかなか認められず貧窮生活が続きました。
いかにもフランス臭い画家なのですが、実はイギリス出身です。
中でも「春の太陽-ロワン河」は名作だと思います。
春の絵は明るく若草芽や花を描いてしまいそうですが、霞みが残る春陽に照らされ、湿った足元からの春の息吹が感じられます。
松尾 好朗