マンションの歩き方

 Aマンションでは、共用廊下の床に溜まった雨水が乾いた後に、カビのような黒い輪染みが残っていました。
 マンションの共用廊下や階段、バルコニーの床には、長尺塩ビシートと呼ばれる塩化ビニル樹脂系で表面をノンスリップに加工した仕上材がよく使われています。
 耐候性、耐久性が向上、現場加工が容易で比較的安価、施工も短期間で可能です。以前は安っぽさが気になりましたが、今は用途により様々なデザインが用意されている仕上材です。微妙な勾配にもなじみ良く、シートの溶接も貼り仕舞い(見切り)も難しくありません。
 特に種類の選択範囲の広さから、店舗等のデザイン性や施工スピードが強く求められる改装工事にも扱いやすい仕上材料です。廃材焼却時に発生するダイオキシンも焼却装置等の改良でほとんど問題がなくなりました。

 Aマンションでは、経年により床下地とシートの間に雨水などが浸入し、接着が剥がれてシートが縮んで波打ち、そこに雨水が溜まる乾燥するを繰り返す状態でした。
 問題は汚れだけでなく、高齢になるにつれ歩くときに足が上がらない傾向があるので、廊下のシートの波の膨らみにつまずいて転倒する危険性があります。
 また専有部分ドアの前のシートが波状になってしまうと、ある日、外に出ようとドアを押したらシートが邪魔をしてドアが開かない・・・少なくともドア(底裏)と床シートがズリズリ擦れることは考えられますので、居住者には大きなストレスになります。

「ヴァージナルの前の二人(音楽の稽古)」1662-65頃 ヨハネス・フェルメール

 貼り替えがすぐにできない場合は、床下地とシートの間に水分を含ませない状態、つまり問題箇所は剥がして乾燥させておいた方が健康的であり、事故が起きないための最低限の処置と思います。
 
 床の材料は、土を踏み固めた土間、石の産地威なら敷石、粘土があればタイル、木が豊富な地域なら下地組みをしてフローリング、イグサが採れる地域では畳など、気候風土によって発達してきました。

 主題のある絵画の中で、白黒の大理石の床が強調されているこの作品は、モノが多い割には静謐な空気を感じます。
  この絵の床が板張りであったりすると、静謐感も清涼感もなくなりボケた印象になっていたでしょう。

 フェルメールは左側から光が入る同じ構図を数点残していますが、輸入品であろう大理石貼りの床やペルシャ絨毯が配され、柔らかな光が入る部屋で音楽教育を受けられる環境、まだピアノのなかった時代(関ケ原の戦いの頃)にヴァージナル(小型チェンバロ)を所有しているオランダの裕福な家庭であったと想像できます。チェロのような形の弦楽器もみえてますね。

 「真珠の耳飾りの少女」の背景には深い色を置くことで、少女の表情を際立たせ、この上なく印象深い作品に仕上げています。
 髪を隠し眉も省略して目とターバンを強調しています。
 父親の毒牙にかかりそうになった少女が抵抗して父を殺してしまい、そのため死罪になったという異国の少女の話を伝え聞いたフェルメールが、想像の中で描いたといわれています。

『真珠の耳飾りの少女』ヨハネス・フェルメール 1665年頃

 当時は真正面を向いた肖像画が当たり前の時代に、頭を45度、目を45度振り向いた構成は斬新です。瞬間の表情、少し開いていても清らな口元と、澄み切った目に寂しさを感じます。
 少女が頭にターバンを巻く風習は、どこの国の衣装なのか分かりません。
 実在しないだろう大粒すぎる真珠(錫という説もありますが重すぎます。)、高価なラピスラズリ(瑠璃)を配合した絵具のターバンの青色、またその青を強調にするための補色の黄色の配色など、トロニー(モデルがない)であることが解ります。
 耳飾りの大粒の真珠は、不幸にも未来を絶たれた少女へ、せめてものフェルメールからのプレゼントかもしれないですね。
 謎を多く残したまま後世に伝えたい作品です。
松尾

Rau ja pai duay gan.

 2016年に逝去されたタイ王国のプミポン・アドゥンヤデート王の命日である10月13日、「聖なる日、偉大な王」と、タイから送られてくるメッセージにはどれにもトップ表示されていました。

 やり場のないコロナ禍の不満の矛先になっているのか、息子のワチラロンコンが国王の位に就いてからは国民の評判は下がる一方です。
 そしていつまでも軍事暫定政府を続けるプラユット首相の独裁政権の批判を込めて、前国王を高く尊び賞賛するメッセージが目立ちます。

 首都圏の国立大学のうち、秀才が集まるマヒドン大学が国際ランキングのタイ最上位です。そして元々「王族貴族の教育」のために開校され、今もエリート層の多くが卒業するのがチュラロンコン大学です。

フランシスコ・デ・ゴヤ「カルロス4世の家族」1801年https://ja.wikipedia.org/wiki/カルロス4世の家族#/media/ファイル:La_familia_de_Carlos_IV,_por_Francisco_de_Goya.jpg
 ゴヤは宮廷画家ながらも、この絵の中でスペイン王室の腐敗と衰退を表現することで、精いっぱいの抵抗をしています。
 愚鈍な王を押しのけ、絵の中央に権力をほしいままにする性悪の王妃が立っています。
 顔つきが面白いですね。

 これに対して「広く庶民層への教育」が目的だった難関のタマサート大学があります。

 最近の政権打倒や王室制度改革のデモや集会をリードしているのが主にタマサート大学の学生です。
 この大学でチアリーディング部を率い、ミス・タマサートにも選ばれたリケ女のปุณยวีร์ จึงเจริญが卒業後、故郷のチェンマイで人気アイドルグループのキャプテンをしています。立場上、政治的発言ができないと苦しい胸の内を発信しています。 

フランシスコ・デ・ゴヤ「1808年5月3日 プリンシペ・ピオの丘での銃殺」
 侵攻してきたフランス軍が、抵抗するマドリード民衆の多くを銃殺刑に処した有名な場面です。
 歴史画としても貴重です。
エドゥアール・マネ「皇帝マキシミリアンの処刑」
 フランス(ナポレオン3世)がメキシコに出兵し、武力で墺皇帝の弟のマキシミリアンをメキシコ皇帝に即位させましたが、メキシコ先住民らの巻き返しを受け、銃殺刑となった場面です。

 その彼女も歌うコロナ禍の医療関係者への感謝と市民を勇気づけるためのหัวใจ๋ใกล้กั๋น(Touch By Heart・心で触れて)という歌、その歌詞の一番最後が、「rau ja pai duay gan=一緒に歩みましょう。」という意味になります。
 これが今日の表題です。

 タイは静かにコロナ禍の終息を迎えましたが、鬱積した不満が軍事政権打倒、王室制度改革という活動のエネルギーに置き換わった感があります。

 バンコクは通称で、本当は長い名前です。その一部を訳すと「戦争のない平和で、九宝のように美しい偉大な天使の都」という意味になります。
 戦争のない天使の都に、これらの絵のようなことが起こらないことを願うばかりです。
松尾
 

フェイクフォーレスト

 この日曜日(10/11)、武蔵小山にあるAマンションの定時総会にアドバイザーの立場で参加させていただきました。
 マンション内の集会室では狭く、新型コロナウィルス感染防止上、三密になるのでダメということで、新築の駅前タワーマンションのモールの多目的室を借りることができましたが、そこでも通常定員の半分までと人数制限があり、間隔を空けて着席し、換気を保ちながらの開催でした。
 
 終了後、この新築タワーマンションのモール内2Fと3Fの植栽を見学したところ、まずムクゲ、ヤマボウシ、ソヨゴの若木が植えられ、この3種は半日影でも育つという共通点があります。和風が似合う雌ソヨゴは育つと赤い実を付けます。
 他に実のなるオリーブ、ザクロ、亜熱帯産のフェイジョアの3種を見つけました。フェイジョアの実は食べたことはありませんが美味しいらしいですよ、残念ながら直植えで陽当たりが良いならともかく、実を付けるまでの管理は難しいと思います。
 そして、まだ移植してから間もない弱っている木の幹や枝にグルグルとLEDライトのコードが巻き付けられストレスを与えているのが気になりました。

モール2Fから1Fへ降りるエスカレーターの両脇の店舗は空いています。

 それよりもっと気になるのがモールにまだ空き店舗があることです。コロナ禍などの事情はあると思いますが、このモール店舗のプランにはチマチマ感があります。
 賃貸側のコストプランのいじくり過ぎの結果でしょうか?

 この絵はダ・ヴィンチの初期作品(受胎告知)ですが背景には、まるで剪定したばかりのような真っすぐで左右対称の樹木が描かれています。

レオナルド・ダ・ヴィンチ(受胎告知)1472-1475年頃

 自然の厳しさを象徴する樹形を見慣れている日本人はこの背景の樹木は不自然だと思ってしまいます。

 しかし、地中海性気候のトスカーナの風景を実際に見ればこれが自然だと納得してしまいます。
松尾

フィレンツェ ウンガネッリ・ピアッザ

防犯カメラはみた。

 Xマンションでは以前、管理員の勤務が3交代制、24時間勤務(仮眠あり)、つまり3日に一度、勤務が回ってくる体制でした。
 マンション内に時間貸しの来客用駐車場が4台分あり、そこは居住者への訪問者や出入業者などで頻繁に利用されています。
 時間単位の駐車場利用料金を管理員が受け取り、日々台帳に記入し、現金を当番の役員宅へ預けていました。
 管理員は車の出入りのために長い時間の離席ができず、時には予約もあり、時間の確認や集計、次への引継ぎにも時間を取られていました。
 ワンマン理事長が長く続けている築古の重い雰囲気のマンションでした。
 
 マンション管理会社から新任フロントが現場へ送り込まれました。その新任フロントの管理組合への提案の一つが、金銭事故防止のため、管理員の現金取り扱いをなくすことでした。
 まず時間貸し駐車場の利用状況を把握するため、管理員の日誌や台帳を調査し始めたところ、曜日や天候には関係なく、3日置きのA管理員の勤務日だけ使用回数が少ないことが判明、追及するとA管理員は利用料金の着服を認めました。
 管理室カウンターと駐車場の画像は防犯カメラに記録されているので、言い訳できないと思ったのでしょう。ただ当時の防犯カメラの再生速度が最大4倍速という骨董品で、もし犯行を認めなければ証拠を探すのにはとてつもなく膨大な時間がかかっていたと思います。(笑)

 3回に1回程度、駐車場利用料を着服していたようですが、業務上横領罪というよりも「ネコババ」とか「くすねる」という言葉が合っているような気がしますね。
 問題のA管理員は、ワンマン理事長に取り入って勝手なことをするので、他の2人の管理員からの評判は良くありませんでした。
 理事長の威を借るタヌキとでもいうのでしょうか?

《印象・日の出》1872年 クロード・モネ

 そして今度は、B管理員が勘違いにより居住者の女性とややこしい関係になり辞職、C管理員は健康上の理由で辞める事になりました。同じ頃、ワンマン理事長が入院、マンションには戻ってくることはありませんでした。

 新任フロントの提案の二つ目は、管理員の24時間体制を止めることでしたので、この機会を逸することなく勤務体制の見直しを提案、組合員の理解もあり、暫定ながらも管理員は日勤体制へと変更、来客用の駐車場はすでに準備を整えていたコインパーキング会社へ委託しました。
 続いて機械警備の導入、防犯カメラの入替と増設を行い新体制が整いました。
 
 管理員の人件費3名分の大幅減額などは、組合員にとっては目から鱗が落ちた感があったようです。
 日勤の管理員は時間貸し駐車場の管理事務作業から解放されたので管理室に常駐する必要も無くなり、日常清掃を兼務できるようになりました。
 タバコ臭い仮眠室と、ゴミがギッシリ詰め込んであった管理用倉庫を片付けて多目的室へと改装、管理室の照明もすべてLEDへとスッキリ生まれ変わった印象です。
 ワンマン理事長を恐れて近寄らなかった居住者から意見が出始め、これからは組合活動も活発になるのでしょう。
 
 この新任のフロントの改革提案と実行力がなければ、組合も管理会社もネコババに気付くこともなく、古い体制を守って余計な支出をダラダラ何年も続けていたかもしれません。
 特筆すべきは、この新任フロントはスーツがとても似合う女性のマンション管理士であることです。

 今世間では、見苦しいほど必死になって既得権を守っているように見えてしまう日本学術会議なるものが話題になっていますが、外野の私は攻防戦を面白く見ています。
 世の中で必要とされないのに上から目線の肩書だけの人種、マンション管理組合の中でもこういう類が理事長になったら理事会も組合員もそして管理員も苦労しますね。

 題目とは関係がありませんが、この絵はル・アーヴルという港が描かれています。モネの生まれ故郷です。ここから対岸のイギリスのポーツマスまで船が出ています。
 この絵の「印象」という題名が印象派の名前の基になりました。
松尾

商社になった管理会社

 最近の管理組合からの相談にフロントの対応力の問題がありました。
 マンションの窓口担当であるフロントは管理業務主任者という国家資格が必要な職種で、管理全般に精通し、総会や理事会の準備、進行などを担うのも仕事の範囲に入ります。(組合により違いがあります。)
 フロントにはマンションにトラブルが発生した時の現場対応や、計画工事の調査などの現地作業もあります。 

https://decouvrirlendroitdudecor.blogspot.com/2015/03/une-alcove-pour-dormir.html

しかし、一部ですが大手のマンション管理会社では、フロントが現場に向かうことはほとんどなく、指定の下請け会社が孫請け業者へ指示、組合宛ての報告書はメーカーなどが現場で写真を撮って作成しています。
 伝言ゲームの結果のような正確性に欠ける報告内容や、ムダな時間経過、復旧工事は中間業者のマージンのため費用も比較的高額になりがちです。

 二流商社やブローカーのように、業者を動かすだけで仕事をした気分になっている一部の大手管理会社のフロントは、組合員に対しても自分が元請けである立場を忘れていることがあります。
 組合から指摘されると「指示したのに業者がやってなかったんです。すぐやらせます。」とか「管理員が業者に伝え忘れたようです。」など、自分は悪くないような言葉が出てしまっています。
 このような悪い習慣から抜けられないのなら、管理組合は大手の管理会社へ委託する意味はありません。
 それでもどうしても大手のブランドが好きなら別ですが。(笑)

 机上で迷ってるなら現場に立ってみること。これはどの業界でも共通している言葉と思います。
 フロントは現場に通い、誰よりも現場をよく知っている立場にならないと、組合へ良いアイデア提供はできないはずです。
松尾