中規模の築浅Aマンションは、デザイナーズマンションと呼ばれて分譲販売されていました。共用部分の内装は自然石や木調の設えでエントランスロビーは清掃が行き届き、ゆったりしたホテルのような高級イメージを持つマンションです。
竣工以来、日常清掃は管理員のBさんが一人で続けていますが、冬の寒い日、雑巾を握るBさんの手は赤くはれていました。
ここには雑巾一枚洗うのもモップや作業着を洗うのもゴミ置場にシンクが一つあるだけで、洗濯機も給湯設備もありません。
この規模のマンションを清掃するのには毎日どのくらいの雑巾等を洗うのか、冬場に冷水と湯とではどちらが短時間で効率の良い清掃作業ができるのか素人でもわかりそうなものですが、インフラの費用が削られ整備されていないマンションは後々大きくランニングコストに跳ね返ってきます。
ゴミ置場の開口部は搬入出に支障がないように親子扉で広く取り、2方向の開口部で自然換気により湿気や臭いを防ぐことは常識ですが、Aマンションには開口部が鉄扉一枚だけで風は通りません。
文章と関係がありませんが、私のデスクの上の水槽です。先住民のカラフルなエビと、どんどん場所を占める根っこが共存しています。
夏になるとゴミ置場にこもった熱気と臭気で、利用者は奥に設けた分別場所へ進まずにゴミを入り口付近に投げ入れ、次の人も手前の床に放置して扉も開けることができない悪循環が起き、清掃作業も増加している状態です。
その扉の幅は取っ手分を除いても有効72㎝しかなく台車(本体60㎝幅)が枠に当たりながらやっと通る幅なので、資源・リサイクル(ペットボトルやアルミ缶等)のパンパンに詰め込んだ大袋(直径約1m)は外へ運び出せないという喜悲劇をBさんは毎週体験しているようです。
その上、ゴミ置場の出入り口は裏通りに面していて、マンションのゴミ集積所は反対側の表通りにあるので、大量のゴミや資源を何往復も台車に乗せて運ぶという本来はやらなくてよい作業をさせられる羽目になっています。よほどの新米が設計したのか、あり得ない動線です。
この時代には主流の古典主義が、調和や理想を重く見る様式であったのに反して、ロマン主義は個人、個性、自由、想像力、時には不合理なもの、幻想的、怪奇的なものに重きを置く思想でした。人物画が多い中では珍しい絵、花よりも花瓶を支える手が気になります。
このAマンションは、販売目的のためだけに見栄えよくデザインされていても、メンテナンスにかかるランニング計画においては大ハズレのマンションと言えます。
Aマンションに限らず、販売目的がかなっていれば、あとはどうでもよい傾向は他でも多く見かけます。
人によりますが設計者に無意識の偏見があるのではないのでしょうか、管理員には湯を使わせないで我慢させればいい、ゴミ置場なんてコストをかけなくていい、ゴミ置場の出入口は裏に隠して管理人にゴミを運ばせればいいという上から目線の意識があるのではないのかと、このマンションを見ると思ってしまいます。
昼間は利用が少ないロビーや廊下に24時間空調を続けるより、時間によってはゴミ置場や集合郵便受けの投函側にも空調を入れる方が居住者の快適性が増します。
ペットの脚洗い場に誰も使わない給湯器を設置しているよりも、管理室やゴミ置場の洗い場に給湯器があれば作業効率が格段に上がるのは間違いありません。
設計者は我を通さず、後になってから誰からにも感謝される設計をして欲しいものです。
松尾