笛吹けど、踊らず。

 街は桜色、汗ばむほどの陽気なのにセミナー会場の後ろから見渡すと、冬色をまとったオジサンたちの後頭部ばかりが目立ちます。
 2021年3月24日(水)マンション管理センター主催の特別セミナーが開催されました。
 世間ではジェンダーについて話題しきりですが、このセミナー一つをとっても女性の参加が極端に少なく、こんなところにもリアル日本とのギャップが見てとれますね。
 ジェンダーギャップ指数ランキング(WEF)が156ヵ国中、日本は120位ということですが、大田区人口の半分にも満たないような国々と日本を比較してマスコミが騒ぐ意味があるのでしょうか、イスラムやヒンドゥー教の国々は下位に追いやられていますが、私こそ正しいという欧米の物差しでしか測れないことがすでに差別だということを早く気付いて欲しいと思います。

 「改正民法及びマンションの管理の適正化の推進に関する法律の一部を改正する法律の概要と管理組合運営への影響等についての解説セミナー」

1864年《白のシンフォニー№2 白衣の少女》 James Abbott McNeill Whistler ホイッスラー

 
 改正民法について、私は仕事で話を合わせる程度でよいと思っていますが、相続発生時の配偶者居住権は、具体例を知りたいと思います。
 適正化法の改正について、マンション管理計画認定制度の基準(案)の中、「計画期間30年以上、かつ残存期間内に2回以上の大規模修繕工事を含む長期修繕計画に基づき修繕積立金の額が設定されていること」と記載されています。
 建物の劣化周期はその使用材料、環境・立地条件、建物規模などによって大きく変わってきますので、何をもって大規模修繕工事という括りなのか、まだ不明確なところがあると思います。
 

 管理組合によっては建物診断結果をよく検討し、新しい設備方式やIT化の導入などを含め、改修すべき箇所を明確にして、中小規模な工事を高い頻度で実施している成功例もあります。

 
 これまでもマンションに関わる総合調査や制度(東京都優良マンション登録表示制度管理状況届出制度マンションみらいネット)などがありました。
 このマンション管理計画認定制度が、認定条件をクリアするためのハードルが少し高いところもあり、直接マンションの理事長に送られた場合には、目的やメリットがよく伝わらなければ記入も面倒なので、「またなんか来てるけどウチはこういうのは結構ですんで・・。」となってしまう恐れがあります。

John Singer Sargent – Morning Walk『朝の散歩』(1888年)ジョン・シンガー・サージェント

 以前、「東京都優良マンション登録表示制度」に登録したマンションが大手管理会社3社が管理する物件ばかりに集中し、登録も増えずに更新もされないという現状があります。
 新しい制度がこれの二の舞にならないようにしなければ、また役人の天下り先を作っただけといわれかねませんね。

 行政が笛を吹いて、大手管理会社がお付き合で踊ってくれた数字を実績にするのでは意味がなく、管理不全マンション予備軍のようなところが届け出るように努力するのが本来の目的だと思います。
 この制度のマンション管理士の役割は大きいと思います。

《白のシンフォニー No.3》 James Abbott McNeill Whistler ホイッスラー

1887John Singer Sargent Carnation, Lily, Lily, Rose『カーネーション、リリー、リリー、ローズ』
ジョン・シンガー・サージェント

 挿絵の作者は、ホイッスラーとサージェントの二人、共にジャポニスムの影響を強く受けた画家で印象派、写実主義、唯美主義、耽美主義と呼ばれますが、その枠に収まらない表現も多く、独特の構図や視点にも東洋美術の影響が見られます。
 美しいものを美しく描き、心地よい印象を残しました。
 エンヤの「On My Way Home」のMVにはこの提灯の絵の実写版のようなシーンが見られます。
 女性たちの白い衣装、ホイッスラーは白の背景に白のドレスという絵画において禁断の手法を試みました。
 二人の様々な試みも、卓抜したデッサン力と質感表現により魅力あるものになっているのだと思います。
松尾
 
 
 



「チラシお断り」は通用するのか?

 住宅街に建つ中規模のAマンションの話です。エントランス集合郵便受けの脇には、「チラシ投函厳禁、見つけ次第警察に通報します。」というパネルがデカデカと掲示され、美観を損ねていて残念です。
 このパネルの通りに「あのぅ、マンションでチラシを投函している人がいるんですけど・・」と110番通報したところで、チラシ投函は犯罪ではありませんので、不法侵入でもしない限り警察は相手にしないでしょう。

 管理組合がチラシ投函禁止というなら、それはマンション内だけに通じるローカルルールなので、警察ではなく組合の誰かが四六時中見張ってないといけないことですね。
 管理規約や使用細則で定めることができるのは、共用部分の管理と使用の範囲なので、もしチラシ禁止ルールを総会で決議しても無効になるどころか、居住者からは(印刷物などで)情報を受ける権利を管理組合が阻害したので、損害賠償請求するとでも言われかねません。

スタンラン ≪ Chocolat de la Compagnie Francaise ≫ 1896-1900
アレクサンドル・スタンラン Alexandre Steinlen [ヴァンジャンヌ殺菌牛乳]

 高齢の居住者が「チラシは迷惑だから入れさせるな」と管理員へ文句を言うことがよくありますが、それは多くのチラシが自分にとっては不要な内容(例えば、エステやネイル、フィットネスやスポーツジム、ピザやフードデリバリーのメニュー、不動産や英会話など)であるのが腹立たしく、自分が理解できない不満や疎外感、面白くない感情を立場が下の管理員へぶつけているだけでしょう。

 その人に関係がある内容(例えば、クリーニング店のクーポンや最寄りスーパーの特売、趣味サークルや知人の短歌の掲載誌、知人の選挙ビラ、広告ティッシュなど)であれば受け取っていると思います。チラシのすべてが迷惑で要らない訳でなく、ただのわがままでしょう。
 管理員が不在の時間帯のチラシ投函は防ぐことはできません。区報は配付しても、チラシがダメなら同封されるチラシ(商店街がスポンサー)を区報の束から抜き取るというのはありえませんね。

 新聞を購読してない家庭にも、購読者と同じチラシの束が入りますが、もしこれも禁止するなら、この社会で通常に情報を受けることができる人の権利を無視することになるでしょう。なお、束になっているチラシはポスティング業者が数件分まとめたものをリスト通りに投函していますので、あて先名と包装がないだけで郵便や宅配と変わりません。
 つまり、チラシ投函禁止ルールは個人の問題であり、管理組合が禁止することは合法になり得ないと思います。
 インターネット環境が身近ではない人(または遠ざけている人)にとっては、活字や写真(印刷物)の媒体が見やすく便利で安心な場合もあるでしょう。そこまで奪う権限は組合にはありません。

≪La Chat noir ≫1896 スタンラン『ルドルフ・サリスの「ル・シャ・ノワール」の巡業)』 

スタンラン ≪ Motocycles Comiot ≫ 1896-1900

 マンション管理会社ではチラシ厳禁を掲げながら、自社や協力会社の専有部分のリフォーム、ハウスクリーニング、不動産仲介、個別保険、給湯器など多くの案内広告をしれっと管理員に投函させているところが笑えます。

 その昔、郵便受けに毎日のように入っていたピンクビラに悩まされた経験のある世代は、「チラシやビラ」=「教育上イケナイもの」という公式が頭のどこかにあって、自分に関係のないものには排除癖があるようですね。

 不要チラシ対策は、投函元の会社に「着払いで送り返す。」という脅し文句を投函口に掲示するというアイデアが以前に紹介されていましたが、実行するには送り主個人の名前と電話番号をさらすリスクがあります。
 管理員へ送付を依頼された場合は「個人名でどうぞ」とはっきり断りましょう。
 唯一、個別の投函口に「チラシ不要」などと意思表示しておけば、トラブルになった場合の対抗策にはなります。
 ただし、集合郵便受けが見た目雑然としてしまい美しいものではありません。

 本日、挿絵に使わせていただいたのは、商業絵画の代表格でモンマルトルを根城にして活躍したスタンランのポスターです。猫好きです。
 パリが好きな人はおなじみのポスターですね、可愛さがあるこれらのほかに名前を隠して政治風刺画や労働者層をテーマにしたものも多く描いています。
 パリの下層民の哀愁、哀歌を感じさせるものです。
松尾


例会報告、無料相談会のお知らせ

 3月7日(日)14:00~定例会が開催され、その時に無料相談会の開催について確認が行われました。

日時:2021年5月23日(日) 14:00~16:00
場所:エセナおおた
内容:「マンション管理全般について」


 ウィルス感染防止対策のため、会場の収容定員が制限されています。そのため、個別の無料相談は、随時行っていますのでご利用ください。
 事務局(松尾)090-4382-6917またはこのホームページの「お問い合わせ」をご利用ください。
事務局

 ご存じ、「バルセロナチェアー」です。
Ludwig Mies van der Rohe  ルードヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(独)が1929年にバルセロナ博覧会のドイツ館の設計をした時のデザインです。
 現在のクオリティーまで改良されたのは少し後になります。
 機能性、合理性を追求したモダニズムという言葉にピッタリなデザインですね。
松尾



子供椅子からの卒業

 このマンションで生まれたAさんの息子は元気に育ち、これまで5年間毎日使い続けて、ちょっと窮屈になった子供椅子にお別れをすることにしました。成長に合わせて座面の高さを調整できる子供椅子です。
 区の粗大ごみ受付センターの手続きも終え、マンション内の指定場所に置いたところ、管理室へ「あの子供用の椅子をいただきたいのですが」と子供を抱いたBさんから依頼があり、Aさんに了解いただきリユースが成立、その椅子はめでたく2番目の主人を持てることになりました。

劒山の朝1926(大正15)年
エルキャピタン1925(大正14)年
ジュマ マシッド1931(昭和6)年

 5年間使用してシートが古くなっているものの、木部は良品です。
 Aさんは、子供の成長を支えてくれた椅子だからと、ピカピカに磨いてから出されたことで、Bさんは、これなら大丈夫と椅子から何か感じたものがあったのだと思います。
 家具であってもゴミとして捨てたことで所有権はなくなりますが、粗大ごみシールが貼ってあれば管理下にあると解釈できるので、勝手に持ち去るのは犯罪でしょう。
 黙って持ち去る人や、区の回収より早く回収する業者(売れそうなモノだけ)が多い中で、ちょっといい話だったので書き留めました。
 AさんBさん共に若いママです。捨ててしまうモノでも感謝を込めて見送ることが出来るAさんの澄んだ心、そのモノの価値を見極めて受け入れられるBさんの感性を見習いたいですね。

 本日紹介したいのは吉田博(1876-1950)という人の版画です。没後70年の展覧会を観に行ってきました。(東京都美術館:2021/3/28迄)
 西洋画家、版画家ですが、次男を穂高と命名するほど山が好きで、登山家でもあります。山岳画家と呼ばれる彼の構図は、おきまりの山の構図とは大きく異なります。

亀戸 1927(昭和2)年
神楽坂通り 夜の雨後1929(昭和4)年

 その昔、テントだけでも重かったでしょうが、その上画材も持ち歩いています。このような姿で登っていたようです。そんな彼が自ら体得した者にしか分からない自然観と版画とは思えない繊細な描写は、誰も真似ができない境地に達しています。
 同時代の黒田清輝ら官費でのフランス留学組(油絵・洋画)に対抗して、自費でアメリカへ渡っています。そこでは粗悪で下品な日本の浮世絵が流通していました。
 その経験から彼は後半生、日本の版画の質を向上することに全力を注ぎます。


 彼が他の画家・版画家と違うところは卓越した技量はもちろんですが、海外の人々が想像、そして期待する日本らしさ、いわゆる外国人受けする題材を決して質を落とさずに大量に摺って、商売として版画の販売をやってのけているところです。
 また、四季の移ろい、一日の時間変化、お天気模様を同じ版木を使って色や版木の枚数の変化で表現することに抵抗がありませんでした。これは、同じものを一定枚数摺ったら版木を燃やす場合がありますので、邪道といわれることがあります。
 桜と五重塔に和服の娘、富士山と松など、期待通りの日本らしさで買って帰りたくなるような上質な版画を摺り、その資金で多くの貧乏画家に活力を与え、戦後の芸術復興に尽くしました。 

 ダイアナ妃の執務室の壁には2枚、吉田博の版画が存在感を示していました。
 作品のコレクターには、フロイト、マッカーサー元帥、ノラジョーンズがいます。

猿沢池
光る海

 吉田博、伊藤若冲等、日本のアカデミックな視点から外れ、主流から認められなかったアーチストが、海外に認められてから逆輸入され、注目されるところが美術界に限らず日本的です。
松尾

わきまえる賃借人?

ポール・デルボー「駅と森」
1960年 Paul Delvaux

 マンションの区分所有者がその専有部分を管理規約・使用細則に定められた用途の範囲で使用する限り、本人が居住しても他人に貸しても本人の自由であり、立場の優劣も発生しません。
 マンションの共用部分の駐車場使用細則において、その専用使用権に優先順位を定めていることがあります。
 

 Aマンションでは駐車場に空きが出た場合、次の順序になることが駐車場使用細則に定められています。
   1.居住する区分所有者及び同居人で1台目の契約の場合
   2.居住する区分所有者及び同居人で2台目の契約の場合
   3.区分所有者から部屋を賃借等をした者及び同居人
 というように、「駐車場に空きが出ました。」というアナウンスがあっても、2台目の希望者よりも後の順位では、賃借人が駐車場を使用できることはあまり望めません。
 但し、賃借人どころかマンション外に募集しても、まだ空きが埋まらないマンションもありますので、立地、環境、地域特性等で違いがあるようです。
 管理会社が管理を徹底できていないマンション駐車場では、居住していない区分所有者が賃借人を「同居人です。」と偽って申込み、「駐車場付き」という有利な条件で賃貸募集していることが以前にありました。しかも賃貸付けしたのがその管理会社の賃貸部門だったりするとほぼ詐欺ですね。(笑)

 居住、非居住の区分所有者は、権利が平等であることから、非居住の区分所有者が優先順序で差別を受ける根拠は全く見当たりません。
 優先順位を付ける議案を総会で決議することは有効でも、公序良俗に違反するということでしょうか、ましてや賃借人へは駐車場使用料を割り増しする差別はあってはなりません。

ポール・デルボー「聖夜」
1956年 Paul Delvaux

 「賃借人はルールを守らないし、駐車場使用料を滞納して夜逃げ(古っ)するので使わさない方がいい」と言われることがありますが、これは無意識の偏見であり、区分所有者に対しても同じことが当てはまります。

 マンション内の駐車場抽選から外れた車を所有する居住者は、一般的には近隣の駐車場を借りる(組合が借り上げることもあります。)ことになります。管理組合はきるだけ費用負担の公平を保つために近隣駐車場賃料相場を頻繁に確認して、マンション駐車場の使用料(賃貸料)へ反映しなくてはなりません。
 例えば、近隣の駐車場が露天にあり、マンションの駐車場は屋根付きであれば、近隣のそれよりマンションの使用料の方を高く設定しなければ公平性は保たれません。雨の中、傘をさして水溜りをまたいで車に辿り着く駐車場の使用料の方が、マンションのそれより高い場合は、抽選に外れた以上に不満や不信感を増すことになるでしょう。

 公平性の原則から駐車場区画の抽選会を毎年開催することがあります。しかし、車両台数が多い場合や、車両サイズ、機械式駐車場の高さ制限の確認、車両移動日の不在者連絡、不参加者の確認作業等、大変な作業であり何らかのトラブルも起きることもあります。
 例えばハイルーフは機械式駐車場のどの段にも入らないことがあるため、平置きを希望している人がいても、ハイルーフの所有者が優先されて平置きを取られ不満を残します。また広くスペースが必要な身障者用駐車場の使用者が、その本来の目的で使用せずに独占使用しているというケースもあります。

ポール・デルボー
「small square station」
1963 Paul Delvaux

 そして機械式駐車場の場合は、年間のメンテナンス費用は軽微であっても、数十年後のリニューアル費用に必要な工事費は、規模にもよりますが駐車場使用料の収入だけでは桁違いに不足します。
 駐車場に何ら恩恵を受けていない区分所有者も負担する工事費を、赤字事業のリニューアルのために取り崩すには賛同を得にくいことが考えられます。

 機械式駐車場に空きが目立ち始めたら、一部又は全部を平置き駐車場に変更した場合のシミュレーションを描いて検討することをお薦めします。

 相変わらず、切取り発言で印象操作を行い得意がっている日本のマスコミですが、刺激的な言葉尻だけをわざわざ海外メディアへ喧伝し、その目立つリアクションを切取り、海外ではみーんなこう言っているぞ、世界中で笑いものになっているぞという両方共3流メディアのやり取り報道を何度も見せられるのは迷惑ですね。
 世界196ヵ国77億人の中で何%が日本のことを少しでも知っているのか、その中でも地球のどこにあるのか区別などできる人はほとんどいません。
 ましてJOC人事のドタバタ等は、夏のオリンピック開催経験国17ヵ国に絞ってみても、どうでもよいのが今の世界でしょう。
 最近、午前や昼過ぎのワイドショーを見る機会がありました。この時間帯のTVは誰が見てるんだろうと思ってしまいますが、魅力のある番組を作って欲しいものです。

 シュールレアリスムの画家、ベルギーのポール・デルボーを紹介します。1897-1994
 生涯愛し続けた女性タムを多く描いているのが有名ですが、上の3点は駅舎の夜景が描かれていることでわかるように、この人は鉄道オタクでもありました。
 裕福な家庭ですが厳格な父、溺愛と束縛の母の環境の中で育てられ、彼は内部にあるイメージを日常から切り離し、非日常へと転化して描き続けました。幻想的でも基礎力があり空気が澄んでいる印象を受けます。
 以前、府中の美術館でデルボー展が開催され、どの絵からも感じたのがクールな「静寂」でした。
 彼は死を迎える前の数年間は、殆ど目が見えなくなりましたが、それでも愛するタムを描き続けました。 
松尾

Paul delvaux