専用庭は誰が管理するの?

 マンション1階の居住者が出入りできるちょっとした庭を見かけます。外から生垣越しに見られるその空間は専用庭と呼ばれています。共用部分であっても専用使用権があり通常時は他の人が立ち入ることはできません。
 ほとんどの場合、その専有部分の区分所有者は管理費とは別に使用する対価(専用庭使用料)を各面積に応じて負担しています。専用庭の日常管理は、その使用者(居住者等)が行うことになります。
 また災害等の緊急時には、避難ハッチや1階居住者の避難経路になっていることがありますので、その経路を妨げるような工作物等の設置はできない等の制限が設けられています。

 専用庭と隣地境界の生垣等について、Aさんはヤシを植えたい、隣のBさんは和風の竹垣にしたいとなると、マンション全体の統一感が保てません。そのため生垣は管理組合の管理範囲となりますが、実際はネットフェンスを境界ギリギリに設けて内側の狭隘幅に丈夫で世話要らずの樹種が植えられ、それを管理組合(or管理会社)が造園業者へ管理委託しています。

「ニューヨークレストラン」 1922年


 尚、内部の庭を芝生や花壇、家庭菜園にすることは自由ですが、目的外になる物置や車庫の設置等は禁止と使用細則に明記されていることもあります。また害虫を発生させるような環境や、鳩の巣を放置する等は近隣への迷惑行為に繋がります。

「夜の窓」1928年

 公道と敷地ギリギリに植えてもフェンスの目などモノともせず木は成長します。どこのマンションでも枝葉が大幅に越境していますね、もともと狭い歩道で人のすれ違いは、葉っぱに体をバチバチ当てながらの通行になります。
 モチやシラカシ、柑橘系に限らずスス病がよく見られますが、通行人の服にスス病の黒い汚れがついて110番通報されたことがありました。

またサザンカによく発生するチャドクガの幼虫(毛虫)に通行人が刺されたら最悪です。管理者(一般的には理事長)が管理責任を負うことになります。
 設計者はこのように枝葉が隣地や公道へ越境することを知りながら放置、改める気も力も無いのか何十年も懲りずに繰り返してます。新しいマンションの計画においてもデベロッパーの言いなりですね。
 植栽規模によりますがマンションでは年間4~6回の植栽管理が計画されているのが一般的です。いつも整然と刈り込まれている大邸宅の庭木が放置され始め、葛が絡まるお化け屋敷のようになってくると、その家の財政状況が想像できてしまいますね。マンションも同じで年6回の造園管理が4回になり2回になり・・・。

(右の絵の拡大部分)
ナイトホークス」は夜更かしする人のこと
エドワード・ホッパー 1942年
 
明るい店内とひっそりした外部との 対比、男の背中から、都会の孤独感が滲み出ています。

 Cさんはクリスマスツリーのような大きなモミの木のある1階専用庭付き中古マンションを購入しました。管理組合が行う植栽剪定の日、造園業者からモミの木は居住者が植えた木なので契約外と告げられました。剪定する場合は高木のため道路側からのクレーン車作業になり道路使用や安全管理を含め費用は高額になるといわれて驚きました。売買時の重要事項調査報告書にはその記載がないので問い合わせると、前所有者も知らずに購入したのでわからないとのことでした。(仲介業者の責任回避の作文に間違いありませんが‥。)

 管理組合は管理規約・使用細則またはそれらに付した確認書、覚書等へ、どの樹木が共用部扱いであることが明記(あるいは平面配置図等に図示)されていないと、マンションを中古で購入時には、すでに植わっていたとなればトラブルの原因になり、放置されても危険であったり上階の居室の日照を妨げになることも考えられますね。

エドワード・ホッパー

 最近の類似例です。築45年を過ぎた物件で、専用庭にサンルームのような居室が増築されておりその状態で売買契約が成立した例があります。過去の専有部分工事届の提出記録等はなく許可されていません(もし提出されても許可はできません)。
 売り主側も購入時にはすでにサンルームは存在していたとのことでした。
 これは管理会社の幾度の変更による引継ぎ不足にも原因がありますが、放置していた管理組合に責任があると考えられます。たとえ10㎡以内でも承認されない共用部分の変更は違法であり、他の部屋と㎡あたりの管理費等の負担や固定資産税の割合が違ってきます。専用庭使用料を納めているのは別問題です。
 その場所で漏水事故が起きた場合、管理組合の共用部分の保険は対象外となります。
 仲介業者は面積が少しでも広い方が高く売れるので、売り抜ければその後はなんの責任も負いません。登記面積と現況面積との違いに疑問を持ち、プロならその説明もしなければなりませんが、売り主と口裏を合わせ見ぬふりを通したのかもしれません。

エドワード・ホッパー
「日曜日の早朝」 1930年

 この数年、管理費コストダウンの要求から、管理員の業務範囲や業務時間を短縮していることが多いので、専有部分に何らかの動きがあっても、清掃を終えてさっさと退出する管理員から会社が多くの情報提供を受けることは期待できません。
 フロント(物件担当)が管理員に居住者の売却やリフォーム情報等、業務範囲外の要求をしても道理に叶わず無理というものでしょう。

 もし誰が植えたかわからないような成長しすぎた樹木を、近隣迷惑のため切らなければならなくなったとき、場所によりますが伐採、伐根は非常に高価なものになります。他の修繕計画に影響する金額になるでしょう。早めに管理組合の植栽管理範囲を明記するものを作成することをお勧めします。

 今回の挿絵には、とってもアメリカンな絵画を選びました。
 エドワード・ポッパー(1882-1967)が大都会の孤独感、憂鬱、自由な中の閉塞感を見事に表しています。
松尾好朗




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