平和のフン害

 平和の象徴が2羽、Aマンションの屋上に仲良く並んでいます。遠くから見ていると、機械室の換気扇のウェザーカバーの中に入り込んだのは間違いないのに、換気扇の部屋側からは姿が見えません。

 不思議に思い内側から換気扇を外してみると、ウエザーカバーと防火ダンパーの狭い隙間に入り込んで2羽のヒナを育てていました。
 これではカラスも猫も入れません。でも炎天下、鉄製カバーの中は高温になりその上、定期的に換気扇が作動するのでプロペラが至近距離でぶんぶん回る危ない最悪の環境だと思うのですが、それでも子孫を残す本能はすべてにも勝るようです。

パブロ・ピカソ

 カバーの中に侵入できないようにネットで塞ぎ、巣を掃除してヒナは専門業者が引き取り、ハト忌避剤をあちこちに設置して終了しました。
 夏の終わりの汗かきオジサンの体験でした。 

パブロ・ピカソ

 動物は確保できる食料が減少すれば出生率も比例します。パン撒きジイサン、餌やりオバサンになぜ野鳥に餌をやることがいけないのかを説くよりも、また鳥獣保護管理法の不備を嘆くよりも、どうやって自分のマンションに寄り付かせないかの努力をするまでです。
松尾

 

                    

自主管理の達人

 不動産業界でマンションの専門家と呼ばれている先生がテレビでマンション管理について話していました。
 話は平凡な内容でしたが、司会者の自主管理とはどういうものですか?との質問に対してこの先生が答えたのは、「メリットは管理費が安く住民同士に共助精神、連帯意識が強い。デメリットは、清掃やゴミ捨て当番が回ってくる。休みの日には住民同士で植木の世話やペンキ塗りをしなくてはならない。
 そのため不動産としての資産価値は低く、購入はお薦めできない。」・・・?
 これはいつ頃の日本の話でしょうか?戦前の隣組?

ルネ・マグリッド「ゴルコンダ」1953年

 私は自主管理マンションのアドバイザーをさせていただいていますが、この先生の言うようなことは何ひとつなく、管理会社を通さないだけで、点検や清掃、修繕工事等は専門業者へ分離発注しています。つまり管理会社へ全部委託しているマンションと基本的に変わらず、清掃も行き届いています。

 違うところは、理事会がビジョンを持ち、無駄を省いているところです。その分、修繕積立金は一定以上確保できています。
 このような古い固定観念を持つ先生をマンションの専門家として登場させているメディアが不勉強ですね、自主管理を自治会や町内会と勘違いされてるのでしょうか?
 残念なことにマンション管理士という制度、職業があることの紹介もありませんでした。

 このイラストは、67年前に描かれています。どこにでもいるような紳士が浮遊(あるいは落下か上昇)しています。固定観念を軽々と飛び越えているところが素敵です。見る人をシュールレアリスムの世界に最もたやすく連れていける画家と思っています。
松尾

不協和音

 Aマンションは屋上(共用部分)の一画に携帯電話のアンテナ基地局を設置するため、通信事業社と賃貸借契約を結び、賃料収入を得ています。
 ある日、管理組合理事長宛てに課税対象(不動産貸付業等の収益事業等)に関わる調査書が税務署から送られてきました。

建物の区分所有等に関する法律【区分所有法】
(共用部分の負担及び利益収取)
第十九条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。

 Aマンションの管理規約はこの条文通りに記載されていますので、収入は各区分所有者へ分配しています。そのため課税対象は管理組合ではなく区分所有者一人一人であるとの見解です。もともと管理組合が所有する共用部分や敷地はありません。国税、地方税の過去5年間の税金と遅延金ですが、区分所有者が納税する場合は、持ち分比で分配すると戸当たり年間20万円を超えないため、給与や年金収入だけの区分所有者は納税の対象者になりません。 

[参考] マンション管理組合が区分所有者以外の者へのマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について(照会) https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hojin/120117/besshi.htm#a02

 この納税に関して、各地の税務署や関係者に見解のバラつきが見られました。この不協和音が生まれた原因が、国税庁が分譲も個人所有マンションも課税対象として十把一絡げにしたわけではないと思いますが、その後マンション内での収益事業について「居住者を含めた全体を収益事業として認定する可能性もある。」と脅しをかけています。まるで特殊詐欺師が使う「権威に従わせる」やり方を連想してしまいます。

アンリ・ルソー(飢えたライオン)1905年

 Aマンションが管理組合(法人税法上、人格のない社団)として納税する場合は、先に管理規約の変更が必要になります。しかしその影響を考えると区分所有者の理解を得るのは難しいと予想できます。

 管理組合に対しての情報は一方に偏らず、他の組合例や判例等を示し、法人税法上の問題点等も伝えないとマンション管理士の存在意義はありませんね。

アンリ・ルソー(蛇使いの女)1907年

 税関の職員をしながら絵を描いていたアンリ・ルソーは、素朴派、野獣派(フォーヴィズム)と呼ばれています。
 当時の保守的な風潮に反し、感性を強調した独特の世界を築き、ヘンテコな絵でも一度出会うと忘れられない作品を残しました。
 当時は作品を散々罵倒されながらも、後のシュールレアリスム等への道を勇気をもって切り開きました。

 当時の絵具は、混色するだけでも化学反応等で色が鈍化することがありますが、彼の絵が今も鮮やかさを保っているのは、混色に気を使った上に神経質なほど筆を管理していたと想像できます。遠景も緻密に描いていますが、性格は几帳面で正直、少し頑固というところでしょうか。
 絵にはジャングルや動物がよく登場していますが、彼は一度も南国へ行ったことがありません。
 パリの熱帯植物園の中でイメージを膨らませ、世界中の動物を連れてきてくれるルソーの世界です。
松尾

100日後に死なないイヌ

 Aマンションは犬猫等ペットの飼育が禁止されています。
 最近入居した家族が犬を飼っているのが判明しました。仲介した不動産屋は「いまどきペット禁止なんてしたら、商売なんないっすよ。」と自分勝手な主張をしていたそうです。
 物件の重要事項調査報告書には「犬猫等ペット飼育不可」と明記されているにも関わらず無視したことになります。悪質な不動産業者は、売買の残金が回収できれば、その後にトラブルになろうが全くどうでもよく、札束を数えているだけです。

伊藤若冲「百犬図」

 理事会はその入居者に飼育は一匹一代限りという条件で許可をしてしまいました。何故なら、すでに禁止を知りながら飼育している家族があり、その飼育条件に合わせたものですが、これが失敗でした。

 子犬ならこれから7年以上も生きるでしょうし、犬種、雌雄、年齢等を管理組合が管理していなければ、途中で犬種が変わっても誰もわかりません。堂々といつまでも飼育を続けられることになります。
 
 違反者から「迷惑料」を徴収すれば許可されたと都合よく解釈され、他の居住者も「なんだか協力金のようなもの」を払えば飼えるみたいと勘違いされてしまいます。不動産業者は、ペットは条件付き飼育可という物件データを入れてしまいます。
 子供に「なんで飼っちやダメなの」と質問されたら説明が難しいですね。
 なし崩しで「飼ったもの勝ち」の状態では、ペットに限らず他のルールも必ず緩々(ユルユル)になります。ルールが守られてないマンションは評価が下がり、資産価値を落としてしまいます。

 違反者は「ペット飼育禁止」だから購入したという多くの区分所有者の財産権を侵害していることの自覚はあるのでしょうか、ルールを守っている居住者にストレスを感じさせているだけでも犯罪行為です。

 他のペット飼育禁止マンションの例ですが、数名が飼育していることが発覚、一年以内に飼育をやめる約束をしましたが守られません。総会で催促すると「あなたはウチの子を殺せというのですか」等と、どのマンションでもお決まりの「殺し」文句が出て、いつの間にやらこちらが悪者になってしまってます。(泣笑)

 

パブロ・ピカソ「犬」

 オオカミやリカオン等のイヌ科の動物は、群れをなして縄張りの中を獲物を探して走り回っています。
 マンション内に閉じ込められている犬は本能を狂わされ、「愛犬家」という名のもと、自己満足や手軽に征服欲を満たす道具にされ犬の権利を奪っているのではないでしょうか。
松尾

 

アマビエに叱られる。

 先が見えない新型コロナ型ウィルス感染防止の努力は、まだまだ続けなければならない状況ですね。マンションの受付カウンターに消毒液を設置していることも多いと思いますが、「感染防止設備」が自然発生した2つの例を紹介します。

 中規模修繕工事中のAマンションでは、エントランス脇に工事関係者が使う手洗い場があります。学校帰りの子供たちがそこで手を洗うようになったので、現場監督がプッシュ式のハンドソープを設置したところ居住者、訪問者までが利用するようになりました。もうすぐ工事が終了するのですが、手洗い場だけ残して欲しいですね。

元祖「アマビエ」

 Bマンションでは、「ペットの脚洗い場」の貯湯槽の使い勝手が悪く、放置されていましたが、水だけが出るようにして、キレイキレイ(ハンドソープ)を置いただけで「人間の手洗い場」として復活しました。
 あったらいいモノが、少しの後押しで自然に「公認」された例でした。

 マンションのエントランス付近には散水栓や排水口がありますので、手洗い場を設けたらいかがでしょうか?種類によりますが消毒液は除菌はできてもしっかり石鹸で洗い流すことに比べ、コロナウィルスに対しては不十分と言われています。マンション内にウィルスを持ち込まれることを考えると、手洗い場は安くて効果のある設備だと思います。

祇園祭 山鉾巡行

 祇園祭は、平安時代に疫病封じのために始まりました。絢爛豪華に飾った山鉾は疫神やたたりを鎮めておくためと伝えられています。この夏、この行事が疫病が原因で中止になるとは皮肉なものです。

 これは、あのミレーの作品です。
 鎌を肩に死神が後姿を見せていることで人の心の奥深くまで突き刺さるように怖ろしさが増幅されています。さすがの構図ですね。

「死と木こり」Jean Francois Millet

 これはペックリンの作品、死神が「ペスト」をまき散らしています。思わず息を止めて後ずさりしてしまう場面です。
 倒れている女性のドレスの色は異質です。赤と白の色にはどのようなストーリーがあるのでしょうか?
 疫病は目に見えないので、不安や不満の対象を絵画で可視化し「悪いのはこいつだ!」と視覚的に情報共有することによって人々の恐怖をやわらげ、死神を憎むことで人と人の争いを避け、教会への不信の高まりを鎮める役割を果たしてきたと思います。

 ペストが去ったあと、ルネサンスが花開きました。
松尾

「ペスト」アルノルド・ベックリン