国から管理組合へ集金システムが続々誕生

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 管理計画認定制度において、認定基準の危機管理体制の中に「要援護者等の把握等を行っていること」という特徴ある条件を設けている地方公共団体があります。
 災害直後はどこからも救助を期待できないので、管理組合(役員)が主体になる場合があるかもしれません。
 要援護者リストを基に必要な援護がスムーズにできるようにとの趣旨と思われます。
 そのリストの対象者が、入院や施設に入所してマンションにいないとか、先週戻って来たとか、常時情報を更新されていなければ正確性に欠けてしまいます。リストに載っているから部屋にいるはずと、本当はいない人の捜索に時間を費やすのは時間的ロスになりますね。
 小規模なコミュニティならともかく、大規模マンションでは全体把握の難易度が高くなると思います。
 管理ができていないリストは、逆に災害現場を混乱させるおそれがあります。

ロバート・フレデリック・ブルーム
『花売り』1892年

 実際の居住者とは、区分所有者(組合員)以外の部屋を借りている居住者等も対象になりますので、管理組合が賃借人等の家族まで常時把握できるのか疑問です(届出がされても世帯主だけで家族の氏名も人数も年齢も記載がない等)。現在は居住者構成が複雑化していますのでプライバシーを侵害しない範囲の情報では災害時には不十分です。
 そもそも賃貸者を含めた要援護者リストの管理を誰が責任をもって維持できるの?ということです。
 管理規約に条項がなければ規約の追加が必要になると考えます。
 

 制度ではリストらしきモノがあれば形式上は認定されるでしょうが、実際の現場で使えなければ意味がありませんね。
 マンション居住者は、日頃からお互いのコミュニケーションを深めておくことが、災害時の対応やトラブルの解決につながる・・・とは、理想論として理解できます。
 しかし、現場は性善説では成り立たず、いわゆる良識ある居住者ばかりではありません。
 居住者の高齢化問題以外でも、居住者カースト、妬み嫉み、無関心、積極性が孤立を招くことや、親切心は用心されたりするのを何度も見ています。
 一定の距離とバランスを取りコミュニティに参加することが必要なのかもしれません。

ロバート・フレデリック・ブルーム『絹物商』1892年 シンシナティ美術館

 自分は居住せずに部屋を貸している組合員の多くは、入居退去の届けを家賃管理を依頼した賃貸不動産会社を居住者名にして、実際の居住者名は不明な場合があります。
 災害時などを考えると、理事会や委員会の活動を行わず(行えず)に他の組合員へ任せ(押し付け)て、恩恵だけを受けている非居住の組合員は、ますます問題視されるでしょう。
 外部在住、非居住の組合員(自称投資家)は、家賃収入減(原価UP)につながる修繕積立金等の値上げに反対する場合が多いですね。年間収益、利回りが悪化すれば手放すだけですから、マンションの将来像を共に考えようなんてつもりは全くない迷惑な存在です。

 話を戻すと、管理組合とは、あくまでもマンション共用部分の維持管理を行うための団体であり、それらに必要な費用の支出範囲は管理規約等で定められています。
 管理計画認定制度において、任意団体の自治会・町内会入会を条件にするのは、管理規約をどう拡大解釈しても整合性は取れないものと考えます。

ロバート・フレデリック・ブルーム『蓮池』

 次々に生まれる制度(管理計画認定制度、管理適正評価制度など)も、区分所有法の解釈とは、かみ合わないと思います。
 別の地方公共団体では「町内会・自治会と連絡窓口を設け、災害時の安否確認の方法を整備継続する」と緊急時等において踏み込んだ要求を管理組合へ向けています。
 大規模なマンションであってもマンション内自治会は認められず、地域の町内会へ入会が前提になります。
 しかし町内会への入会は任意ですので、この自治体が何を根拠にして認定条件にしているのかわかりません。

ロバート・フレデリック・ブルーム
『飴屋』1893年
メトロポリタン美術館

 いつ起きるかわからない大災害への対策を広く認知し、地域互助の機運が高まればという期待があるものと理解できます。
 町内会を前面に地域コミュニティを育てるという理想ですが、町内会役員のなり手不足の上に高齢化、独裁化、排他性、超ブラック不透明会計も以前から問題視されています。
 組織図的にいうと、マンション内自治会の上に位置して、役所の末端組織である町内会ですが、災害時に高齢化した任意団体がどれほど頼りになるのか疑問です。

 マンションの多くが在宅避難を基本としていますが、戸建て等は公的施設への避難ですので、災害時にはまず最初の行動から違っています。
 また公から補助金を受け会費収入等がある町内会(任意団体)と、共用部分を維持管理するための管理組合という団体とは、相いれる範囲は限られるのは当然です。

 この管理計画認定制度(地方公共団体)や管理適正評価制度(マンション管理業協会)など、多くの制度の認定料、システム利用料、事前確認審査料、登録料、評価申請手数料、更新手数料等が発生しています。

 共用部分の電気料金が上がっただけでも繰越余剰金の少ない小規模の管理組合は予算オーバーとなるので、すでに修繕積立金会計から借入という禁じ手を使っている組合もあります。

ロバート・フレデリック・ブルーム
「露天商」
 

 以前も同じことを記載しましたが、中堅大手管理会社が管理しているマンションは、関係する法律遵守はもちろん一定水準が保たれ、管理が適正に行われています。それらをバラバラな基準で認定、評価(点数化)しても社会貢献度は低いものと感じます。

 私は、様々な事情で管理不能(不完全)、管理(会計)破綻に陥ったマンション、耐震補強(または建替え)が必要なマンションを支援して、管理水準を底上げして少しでも地域環境を含めて資産価値を高める方が重要だと思っています。
 制度がマンションの管理水準を高め活性化に繋がればよいのですが、これまでの各制度の失敗を生かして学んでいただく方が先だと思います。
 そしてまた公の外郭団体を増設し、管理組合(区分所有者)が捻出する関係費用が、天下りの資金源にならないようにと願うばかりです。

 挿絵:米シンシナティで生まれたロバート・フレデリック・ブルームは、緻密ながらも生き生きと動きのある画法で興味深い作品を残しています。1890年から92年まで、雑誌の挿絵画家として日本に滞在しました。
 日清戦争が始まるのは1894年ですから、江戸から近代立国の道へとの時代に、庶民を題材にして活発な風俗がスナップ写真のように描かれています。
 当時の欧米の画家は、日本人と中国人を混同(ほぼ同一視)し、作品にどこか上から目線を感じますが、ブルームの作品からはそれを感じることはありません。 
 松尾好朗




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