長期修繕計画はバイブルにあらず。

 Aマンション役員のBさんは、来期は長期修繕計画の中で各扉等の鉄部塗装工事が予定されているので、総会で予算承認を受けるため管理会社に見積(3社)を依頼しました。
 前回の鉄部塗装は5年前の大規模修繕工事でした。現場を確認すると風雨を直接受ける場所の鉄部に若干の白亜化(チョーキング)と扉下端に点錆がみられましたが、開放廊下でない場所の鉄部は目視上、ほとんど劣化が見られません。表面劣化は砂塵等が直接塗装表面にぶつかるキズ等の他、紫外線や乾湿温度変化、様々な化学物質を含んだ塵埃が鉄部表面に蓄積したものとCO2との化学変化等があります。
 Aマンションは鉄部を日常的によく清拭されていたため、清掃管理が建物全体の劣化防止に効果的ということがよくわかる例になります。経験上、掃除(同時に換気)の行き届いているマンションは建物の劣化度合いが低いと感じます。空き家がすぐに劣化してしまうのを考えればわかりますね。

香港の竹製足場

3社に工事見積を依頼するときは1社は管理会社(関連施工会社)でよいと思いますが、2社は組合で探さないと公平な比較ができません。組合内部で共通の仕様書の作成や見積査定ができない場合は、竣工図書や過去の修繕資料を用意してマンション管理士に相談することをお薦めします。この内容については別の機会にします。

 長期修繕計画を決議したからといって、その通りに実行する必要はなく、一般的な計画の目安、資金計画の参考程度と考えた方がいいでしょう。管理会社や各分野の工事業者は商売のため当然のように施工を勧めてきます。
 本当に来期施工する必要がある工事なのか、あるいはAマンションのように鉄部のすべてを塗り直す必要があるのか、そもそも(消防用設備のボックス等)鉄部を違う材質にする選択肢がないのか、まずそこから調査し計画をしないと修繕積立金がいくら潤沢であっても、いずれ収支は破綻(または各戸負担金の値上)します。「管理会社に任せてあります。」とか「施工会社やコンサルタントがこう言ってたから。」の理由で毎度お決まりの工事をやっていては他の組合員に説明がつかなくなります。
 長期修繕計画は現在を基準にして予測値を算出したものであり、将来の生活環境の変化や、その求められる水準に合った仕様ではありません。例えば、セキュリティーやインターホンシステム関連、宅配ロッカーシステム、造園土木計画、IT化への設備対応関連等が予備費等で計画されているのかを確認しておかなければ大きな金額変更が必要になってきます。
松尾

これを着て外を歩けますか?

 知人のAさんは繊維業界一筋で定年退職され、体が動くうちに異業種を経験したいと、マンション管理員の職に就かれました。
 仕事内容に問題はありませんが、服飾も扱っていたAさんにとっては、管理会社が支給したユニフォーム(制服)のセンスの悪さに驚かれたようです。しかも作業用にしては生地の品質が疑問で、デザインはどこかの国の革命の服を連想するものでした。

パブロ・ピカソのバスク柄シャツ

 あなたはこれを着て外を歩けますか?とフロントに質問したところ、他の場所の管理員がこれを着ているのをあまり見ないとのことでした。
 Aさんのように一つの業界で定年まで勤め上げた人は特に、経験とプライドの中でも節度を持って物事を考え行動されます。
 これまでとは全く違う世界に入り、期待と不安の中、都落ちならともかく、社員も着ないような制服を与えられて、「囚われ人」になってしまったような気分だったと思います。

 別の管理会社では、管理員がどこにいるかよく目立つという発想から、制服の上着を鮮やかな黄色に変えたところ、居住者から「ヒヨコが歩いてるみたい。」、「大きな保育園児か?」等と不評でした。
 一方的な考えで「異物」を持ち込むと、マンションによっては、その建物の雰囲気と全くマッチしない場合があります。本部機能がある組織は押し付けではなく、調和を十分に考えてないと現場には受け入れられませんね。

 今はユニフォーム(制服)というより、その文化的な思考を含めた衣装という扱いでコスチュームと呼ばれるようです。
 管理業界が企画会議にデザイナーを入れる時代は望めませんが、管理会社のオジサンのセンスで一律に決めるのではなく、目的のマンションの建つ街の個性、居住者が意識するグレード、管理員の個性等を考えあわせたコスチュームを考える時代です。
松尾

クルーズ船で思い出すこと・・・困った役員

 ウィルスクラスター感染の典型となったクルーズ船で思い出したことがあります。
 教育関係の仕事に長年携わった役人で、定年後に天下った先では特に仕事はなく、そこで自分史を書き上げて退職し、夫婦でクルーズ船に乗り世界一周をして帰国したという管理組合の役員がいました。

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 その自分史を自費出版し、上の立場の人には贈呈していますが、下の立場の管理会社のフロントや業者には買わせていたということでした。自分史の内容は、「我が人生に一片の悔いなし」というタイプの人物なので、読まずともだいたい想像できます。(笑) 

 夫婦はクルーズ船内で毎日交換されるシャンプーリンスと石鹸のセットをたくさん持ち帰り「うちじゃあ使わないから」ということで管理室へ持参された。世界一周旅行のお土産をありがたく頂戴したものの、管理員は「うちでも使わないよ」という心境だったろうと思います。
 
 ともかく、こういうタイプの人物(以下A理事)が管理組合の役員に加わったので、管理会社のフロントや管理員は苦労したようです。
 管理員はA理事の「清掃チェック」に付き合う羽目になりましたが、各階の廊下、階段、敷地外周の歩行がハードだったようで、これは自然消滅しました。 
 フロントには、総会に配付する資料の隅々まで「熱心」な質問があり、毎日の対応に膨大な時間を取られたようです。
 総会当日、理事会承認した内容について、組合員から質問を受ける立場であるA理事は、理事長や管理会社に対し、些末と思えることを上から目線で質問して総会を混乱させました。いつも昼前には終わる総会が午後へずれ込み、さらに時間が経過してA理事以外は理事長だけという状態になった時点で、途中退席者の委任を受けた議長(理事長)がすべて可決し終了しました。理事長は最後まで紳士的で、管理会社のフロントも粘り強く、総会議事録(案)もうまくまとめていました。
 このA理事のようなタイプの人物は、マンション内でも孤立してしまい、居心地はいいものではなくなると思うのですが、本人がそれを感じるかどうかが問題でしょうね。
 個人情報になるので開示できるのはここまでです。

 このマンションとの関りはマンション管理士としてではなく、ある工事計画の説明をするために参加した時の出来事です。総会後の打合せのため、最後まで見届けました。
松尾

笑えない事故

 認知症の高齢者が京阪線の線路に入りこみ、電車を止めてしまった事故がありました。(4/25の報道)
 以前、あるマンションの管理員の奥さんから、主人は時々認知の症状が出るので退職するとの連絡をいただきました。新しい管理員と引継ぎも終わり2ヶ月ほど経った頃、その元管理員がひょっこりと「出勤」してきたのです。現管理員がよくできた人で、少しの会話の中で状況を察し、元管理員の心を傷つけないように引き取ってもらったことがありました。その後も何度か出勤され、奥さんが追っかけて来られた日もあったようです。
 管理会社は、簡単な雇用(労働)契約、や業務委託契約により管理員を現場に派遣しています。認知症に限らず、仕事に支障がある可能性がある持病、病歴を隠して契約するのは「健康状態」の詐称になります。雇用側が健康診断書と保証人2名とか、卒業証明書とか、第2次面接の日時等と色々要求しているうちに、他の管理会社に先に採用されてしまい、良い人材に逃げられてしまうことがあるため、短時間でも会話を通してその人の雰囲気、歩き方等を総合して判断し、面接だけで即決(内定)することもあります。また、現管理員が急な入院等で、すぐに働いて欲しいというケースが多いという理由もあり、健康状態を細かく聞き取りできてないのが現状だと思います。
 

 病気を知らず本人がケガをしたり、トラブルの原因を作った後では、雇用側が「知りませんでした。」では済まないので、試用期間中にコミュニケーションをよくして体調のことを聞き出すのがよいと思います。人によっては大病をしたことを自慢気に話すこともありますね。ある日、管理員が屋上で倒れていたなど想像したくありません。

 別のマンションの役員から、以前なら挨拶を普通にしていた方なのに、明らかに認知症状では?という一人暮らしの高齢者が数名居住されているという情報について、管理組合で何かできることはないのか、今話し合っています。それぞれの家庭の事情やプライバシーの問題もあると思いますが、万が一の対応、連絡、定期的な見守りは必要だと思います。さらに期日限定ではなく、持続することが重要になります。
松尾

総会どうする?

 マンション管理組合との管理委託契約の中で、管理会社は管理規約で定めた時期までに通常(定時)総会が開催できるように準備しています。この新型コロナウィルス感染拡大防止の状況下、総会開催について3/27マンション管理センターのQ&A(以下にリンク先)

に総会の延期、議決権行使書及び委任状のみの総会、書面決議等の方法が示されています。

 総会延期の場合は、本来が通常の時期の総会で情報発信(収集)できる内容が時間経過により新鮮さを失います。例えば半年以上前に新年度が始まっていては予算承認等の意味も薄れます。総会議案書を先に配付しても、後の総会開催までの期間中に本人を含め環境、情勢の変化による影響があれば、議案書受取時とは判断基準も違ってきますね。

 議決権行使書と委任状だけで総会を開催する場合でも、役員間に感染意識のレベル差がある不安の中で、最低限の会話が必要になり、管理会社関係者の移動、接触も発生します。経験上、出席通知書を出さずに当日に出席して発言するのが好きな区分所有者もいます。

 書面決議は、①区分所有者(議決権者)の全員から今回の総会は「書面決議の方法をとる。」ことの承諾を受けてから、②議案の決議(規約で定められた通り)をする順番です。①で全員の承諾が条件になるため、1人でも反対や連絡が取れない区分所有者がいた場合は②も不成立になります。

 共用部分の管理に関する事項は「集会の決議で決する。」の原則から、書面決議はあくまでも「決議があったものとみなす。」ものであり集会(総会)を開催したことにはならないのですが、方法も決議も有効です。
 現在、全国に緊急事態宣言が発出され、人の移動、集合し会話する行為を避ける上で最も合理性があると思います。

 マンションの規模やタイプにもよりますが、全員の承諾を得ることが可能な管理組合は、普段でも健全で無駄がなく管理が行き届いていると想像できます。
 開催に否定的な役員さんには書面決議の方法を提案してはいかがでしょうか?

松尾

Augst Macke ( 1887-1914) 「四人の少女達 」

ルーフバルコニーの柵の外周管理

 マンション標準管理規約第14条(バルコニー等の専用使用権)及び別表4共用部分の範囲で、バルコニー等の位置、専用使用権者が記載されています。
 標準管理規約第21条(敷地及び共用部分の管理)第1項では、「バルコニー等の保存行為のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。」とあります。

 一般的なバルコニーの排水溝は柵(手すり壁・腰壁)の内側にありますので、専用使用権者が通常の使用に伴う保存行為(雨水等が流れるように排水溝の掃除等)を行うことが可能ですが、ルーフバルコニーでは、手すり柵の外側に排水溝があり、専用使用権者が柵の外に出て通常の管理を行うことが難しい(危険、出入不能等)場合でも、排水溝にゴミを詰まらせたことが原因で事故等が起きれば、その区分所有者が責任を負うことになります。
 管理会社との委託契約書の仕様書にルーフバルコニーの管理が含まれいても、目視ができない場所で、管理には専有部内と通らないとルーフバルコニーに出られない構造である場合では、在宅していただかないと点検清掃ができません。管理会社は事故があった場合にトラブルを避けるためには、直近の点検時に在宅要請にもかかわらず不在であった場合は責任を負わない旨の契約条項を含めることが必要だと思います。
 仕様にない場合や自主管理の場合等でも、事故発生の責任所在を明記してトラブルを避け、総会などで説明して理解していただくことが重要と思います。


 尚、標準管理規約に「屋上テラス」という記載もありますが、テラスはテラ(土、地球)の意味から1階の床部分(デッキやタイル等で仕上)を指すものだと思います。屋上は床をどう加工しても「屋上」です。
松尾