各制度から共用部分を考える。

 Aマンションの〇〇号室を買いました。
 と言っても、その部屋へは共用部分(エントランス、エレベーター、廊下など)を通らないと到着しませんね。
 部屋の中(専有部分内)にいたとしても、給排水汚水管、電気・通信・ガス設備などは共用部分の本管から各部屋へつながっていますので、居住のためには切り離すことはできません。
 さらに言えば、マンションでは住戸の玄関扉や窓サッシも床、壁、天井のコンクリート部分と同じ共用部分です。

 専有部分・共用部分は必ずセットになっていますので、マンションの専有部分だけ、共用部分だけと分離しての売買は成り立ちません。
 ある施設跡地に複数の戸建て住宅が分譲されました。
 各戸へは共有の敷地(私道)を通りますが、私道の下には各戸への設備配管が埋設されていますが、これもマンションの共用部分の考えと同じですね。
 

銀座三越1930年(昭和5年)4月10日開店のポスター杉浦 非水

 購入時は、ローンのこと、引っ越しのこと、部屋の中のキッチンの配置、カーテンの丈のこと等々、もう目の前のことで頭が一杯です。
 「共用部分が気に入ったのでマンションを購入しました。」という話はあまり聞かないですね。
 見渡すと外観やファサードは個性的な構えよりも売りやすい(買いやすい)平均的な(無難な)デザインになりがちです。
 また建設会社によってはコストやメンテナンス面で全国どこも同じような平凡な仕様で建てられています。地方の駅前にチェーン店が並んでいるようで面白くありません。
 ひと昔前は、マンションの屋上に建設会社の看板をデーンと掲げるという光景をよく見かけました。ww

《爽快美味滋強飲料カルピス》
1926年 愛媛県美術館蔵

 マンションは共用部分を除くとすべてが各々の専有部分です。それは個人が所有していますので、何ら戸建て住宅と変わりません。マンションは共用部分であっても公共物ではなく私有財産(所有権)です。
 しかし国・都・区その関係機関からは、個人の所有物であるマンションに対して、次から次に様々な(時にはおせっかいな)制度、検査・調査を課し、またその費用までも負担をさせます。不思議ですね。
・管理計画認定制度
・マンション管理適正評価制度
・管理状況届出制度
・優良マンション登録表示制度
・マンションみらいネット
・12条点検等
・様々なアンケート調査
 これらの制度等の効果を聞くことはまだ少ないですが、手続きがウェブ申請等で簡素化と改良もあり、普及を期待したいところです。

 データの信頼度は正確さと継続性、そして圧倒する数が必要です。
 笛吹けど踊らずだった、以前に実施した数々の制度の失敗を逆に生かして欲しいものです。
 管理組合の活動の中、防災・防犯、危険防止(老朽化放置・耐震未実施)等の人命に関わる部分、他に迷惑をかけるおそれがある場合等、必要性が理解ができます。

 しかし福祉(高齢者独居、要介護・援護、孤独死等)、犯罪防止(スラム化放置、特殊詐欺等拠点、不法占拠等)対策等、なんでも管理組合へ押し付ける(ように思える)のは筋違いで、これらは公が行うべき仕事だと考えます。
 大田区管理計画認定制度の独自基準は、管理組合は緊急時名簿に「要援護者名簿を備える。」とあります。
 管理組合はマンション内の共用部分の管理を行うための組織ですので、区分所有者や賃借人等と同居する家族が要援護者であるかどうかの個人情報を得る手段も権限もありません。
 任意の回答しか期待できません。

東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」昭和2年(1927年)

 各家庭の事情は、地域コミュニティーの範囲になります。
 例えば、援護が不要になったり、在宅しなくなったりと、状況は変化すると思いますので、理事会が最新のデータをキープできるのか疑問です。また古い調査データは、反対に緊急時に混乱を招きます。
 管理組合で組合員の調査が必要になっても、高額な弁護士費用を払うほどの緊急性や損害がなければ放置となってしまいます。逆に公的組織の側から、管理組合へ必要なデータの公開、提供ができるはずです。

「朝寒」杉浦非水
雑誌「三越」1929年11月表紙

 何度も記載していますが、管理適正化法で免許登録している管理会社へ(全部・部分)委託しているマンション管理組合では、定期的な会計報告、点検等をプロが実施し、区分所有法や管理規約に基づいた運営が行われていれば健全であり、人様の家(マンション)へ役所が立ち入る必要はありません。
 個人の所有物であるマンションに、ヨソ者が点数をつけて格付けするという上から目線の登録制度なら不要です。

  公が助言、指導、勧告すべきは、例えば公的書類が到達しない、アンケート等に一度も反応がない、見た目でもスラム化を放置している等の管理組合をターゲットにして実施すべきで、健全な管理組合を含めて全組合を対象にするのは税のムダでしょう。
 これまでの制度等の失敗を生かして欲しいと思います。・・・これ2回目
 毎年度、一定額を回収できる制度を作って、それを天下り収容集金システムと揶揄されないように期待します。
 最近では、もっともらしい名前を掲げた多くのNPO組織へ都がもっともらしい名前の事業を丸投げして、事実上チェックも行われずに公金を吸われ放題になっていることは周知のとおりです。
 地価が高い土地に効率よく居住空間を提供できるマンションは、すでに国民の1割を超える人々が居住し、生活形態は定着してきました。
 公が管理組合へ何度もあの手この手で負担を求め続け、法で縛って委縮させるのは将来的に得策にはなりません。

 挿絵は杉浦非水(ひすい)、松山生まれです。
 現芸大で日本画家を目指していましたが、図案家に転向、三越(当時は三越呉服店)の図案主任(チーフグラフィックデザイナー)となり、後に多摩美の創設、校長になります。
 図案描き(商業美術のデザイナー)の身分を向上させた人と言えます。時代に敏感でないとできない職業です。
 銀座線開通のポスターの人々の衣装に注目、あえて多くの人を配置して賑わいを、憧れのリッチでおしゃれな人々ばかりを描きました。子供もよそ行きの洋服ですね、日本髪の女性も見られます。
 一点透視図はこうやって描けという図法のサンプル画になりそうです。
 視覚的に特にカラーでの伝達手段が少なかった時代に、写真では表せないポスターでならではの夢を刷り込んでいます。ところで銀座線は最初から黄色だったのですね。
 この人は商業美術で活動し名を残しましたが、描写力の実力が分かる植物画も貼っておきます。(非水百花譜より)
松尾好朗

さるとりいばら

モクレン

ぼけ

山百合



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