管理員の壁

 「おおた区報・区民のひろば」5/1号
  相談会「マンション管理全般のご相談」の案内が掲載されました。
   日時:5月29日(日)午後2時~4時 
   場所:エセナ大田


 午後2時頃、商業地域に建つAマンションの管理緊急センターへ、隣接するBマンションの居住者(女性)から、「Aマンションの屋上に携帯電話を落としたので至急屋上の鍵を貸して欲しい。」と連絡がありました。
 屋上へ上がるには脚立からタラップに移るという危険な動作が伴うため、鍵だけを貸すことはできません。Aマンションの担当は別件を対応中、管理員はすでに勤務終了し帰宅、警備会社は契約外の業務になるため対応は午後6時以降で約2万円の費用が発生するということでした。

木の葉に埋もれたはしご 1892年(L’échelle dans le feuillage)denis_feuillage

 担当はまもなく雨天になる情報を得たため、その落とした携帯電話が雨水で使用不能になること、さらに警備会社からは出動費2万円の請求が来ることは避けたく、また近隣との良好な関係維持のため、一度帰宅した管理員へ対応依頼したところ快諾、雨が降る前に管理員から落とし主本人へ渡すことができました。

 A、Bマンションは隣接しているもののバルコニーから普通に携帯電話を落としてもAマンションの屋上には届きません。

 この真相は母親(連絡主)が携帯ばかりをいじって息子(幼児)のことをかまってやらないため、その息子が怒って母親の携帯をバルコニーから投げ捨て隣接するAマンションの屋上に乗っかったのでした。ここまでは「母親はちゃんと子供の顔を見て話しなさいよ」という現代の象徴的な事件ということで以前に紹介したことがあります。

天国 (Le Paradis) 1912年denis_paradis
日本の絵画では俯瞰図は珍しくありませんが、アジサイの咲く庭に多くの天使と子供たちが遊んでいる作品です。想像の俯瞰図ではなく、別荘の2階から描かれました。


 この続きがあります。担当はその母親へ、管理員に無理を聞いてもらったことを説明しておいたのですが、その母親から管理員へお礼と渡された紙袋には香りの強いお茶のティーバッグが数個バラで入っていました。勝手な推測ですが、アジア旅行等でお土産を買った(もらった)けど美味しくない、でも捨てずにおいたのが残っている。管理員へのお礼ならこれでいいだろうという判断ではないでしょうか?高価なものでなくても、せめて新品を贈るべきではと感じますね。
 以前このブログでも、旅行先のホテルバスルームにあるシャンプーリンス等の小袋セットを使わずに持ち帰ったのにウチじゃこんなもん使わないからと管理員へのお土産にした役員を紹介したことがありますがこれも同じです。 

ミューズたち 1893年 denis_muses

 お客様との信頼関係を築くためといって、管理員が一生懸命、誠心誠意居住者のために尽くしても、無意識であってもこのような偏見、差別を示されるたびに高い壁がある気がします。

 このモーリス・ドニ(仏/ノルマンディー)の作品には斬新さの中にも古典的な哲学、宗教性を感じさせます。美術は精神性を創造する唯一の手段であると主張しています。


 ゴーギャンの作品に魅了され、また日本美術の中にある調和を見出し、定型化された構成と装飾性に進化します。
 
松尾好朗

アンコンシャス・バイアス

 中規模の築浅Aマンションは、デザイナーズマンションと呼ばれて分譲販売されていました。共用部分の内装は自然石や木調の設えでエントランスロビーは清掃が行き届き、ゆったりしたホテルのような高級イメージを持つマンションです。

 竣工以来、日常清掃は管理員のBさんが一人で続けていますが、冬の寒い日、雑巾を握るBさんの手は赤くはれていました。
 ここには雑巾一枚洗うのもモップや作業着を洗うのもゴミ置場にシンクが一つあるだけで、洗濯機も給湯設備もありません。
 この規模のマンションを清掃するのには毎日どのくらいの雑巾等を洗うのか、冬場に冷水と湯とではどちらが短時間で効率の良い清掃作業ができるのか素人でもわかりそうなものですが、インフラの費用が削られ整備されていないマンションは後々大きくランニングコストに跳ね返ってきます。

 ゴミ置場の開口部は搬入出に支障がないように親子扉で広く取り、2方向の開口部で自然換気により湿気や臭いを防ぐことは常識ですが、Aマンションには開口部が鉄扉一枚だけで風は通りません。

水耕栽培の「春の花ミックス」花はこれから咲く予定
水耕栽培「水中の根」

文章と関係がありませんが、私のデスクの上の水槽です。先住民のカラフルなエビと、どんどん場所を占める根っこが共存しています。

 夏になるとゴミ置場にこもった熱気と臭気で、利用者は奥に設けた分別場所へ進まずにゴミを入り口付近に投げ入れ、次の人も手前の床に放置して扉も開けることができない悪循環が起き、清掃作業も増加している状態です。
 その扉の幅は取っ手分を除いても有効72㎝しかなく台車(本体60㎝幅)が枠に当たりながらやっと通る幅なので、資源・リサイクル(ペットボトルやアルミ缶等)のパンパンに詰め込んだ大袋(直径約1m)は外へ運び出せないという喜悲劇をBさんは毎週体験しているようです。
 その上、ゴミ置場の出入り口は裏通りに面していて、マンションのゴミ集積所は反対側の表通りにあるので、大量のゴミや資源を何往復も台車に乗せて運ぶという本来はやらなくてよい作業をさせられる羽目になっています。よほどの新米が設計したのか、あり得ない動線です。

「花」フランチェスコ・アイエツ 1791-1882 イタリア・ロマン主義

 この時代には主流の古典主義が、調和や理想を重く見る様式であったのに反して、ロマン主義は個人、個性、自由、想像力、時には不合理なもの、幻想的、怪奇的なものに重きを置く思想でした。人物画が多い中では珍しい絵、花よりも花瓶を支える手が気になります。

このAマンションは、販売目的のためだけに見栄えよくデザインされていても、メンテナンスにかかるランニング計画においては大ハズレのマンションと言えます。
 Aマンションに限らず、販売目的がかなっていれば、あとはどうでもよい傾向は他でも多く見かけます。
 人によりますが設計者に無意識の偏見があるのではないのでしょうか、管理員には湯を使わせないで我慢させればいい、ゴミ置場なんてコストをかけなくていい、ゴミ置場の出入口は裏に隠して管理人にゴミを運ばせればいいという上から目線の意識があるのではないのかと、このマンションを見ると思ってしまいます。
昼間は利用が少ないロビーや廊下に24時間空調を続けるより、時間によってはゴミ置場や集合郵便受けの投函側にも空調を入れる方が居住者の快適性が増します。

 ペットの脚洗い場に誰も使わない給湯器を設置しているよりも、管理室やゴミ置場の洗い場に給湯器があれば作業効率が格段に上がるのは間違いありません。
 設計者は我を通さず、後になってから誰からにも感謝される設計をして欲しいものです。
松尾