見守るか、見ぬふりか

 駅チカのAマンションの管理員さんは勤続20年超えの元営業ウーマンです。おしゃれで外交的、子供が大好きです。
 このマンションで赤ちゃんが誕生し、成人式を迎えた人にとっては、お母さんのお腹にいるときから人生のすべての期間を管理室から見守ってくれている存在です。
 また、建物と共に高齢化し、独居となって暮らす居住者も多く、その人たちにとっては、昔の話題を共有できている話し相手で、お互いが顔を確認するだけで安心するという存在です。

 管理員さんは後期高齢者と呼ばれる年齢ですが、代わりになる人物を見つけるのは難しく、管理組合としてはできるだけ長く勤めて欲しいため、力の要る朝のゴミ出しを外注して、現在は管理室で受付、窓口業務を任せています。
 下階に店舗が入っているマンションなので見知らぬ人の出入りも多く、住居専用のようなオートロックシステムもありません。

 有人管理のマンションのメリットは、防犯上で狙われ難いというデータの通り、これまで大きな事件事故は繁華街の近くに関わらず起きていません。
 管理員さんが今後も継続できるように勤務日数の調整等、体力的に負担を少なくする方向を理事会で話し合い、本人の希望を確認することにしました。

 同規模のBマンションにも管理室はありますが、窓口はカーテンで閉じられています。
 経費節減の目的もあり、ゴミ出し曜日に合わせて管理会社から派遣された清掃管理員がマニュアルに則り作業をしています。
 勤務曜日が飛び石になる場合は、週3回といっても結局は一週間拘束されます。それだけでは募集しても応募がありませんので、ゴミ曜日が違う近くのマンションや、土日や夜間のビル清掃などと組合せて勤務時間を稼ぎ、一定の収入が確保できるようにしています。
 そのためいつも同じ人が同じ場所で勤務するとは限りません。
 時間に拘束されるため、自分の担当業務以外のことに気付きがあったとしても、見て見ぬふりという場合もあるかもしれません。
 清掃員と居住者とのコミュニケーションは、挨拶程度で希薄になります。

 A、Bマンションともに区分所有者の資産価値の維持向上が目的です。Bマンションは清掃管理を契約通りに実施していれば誰が行なってもよいのですが、Aマンションは管理員さんが長い経験を生かした管理が行われているので、心理的な部分(安心・信頼など)を含め、Bマンションとは居住性に大きな差ができていると思っています。

歌川広重 1857年
大はしあたけの夕立
「没後160年記念 歌川国芳」展

 私の経験上、清掃管理費用を削減したマンションでは、全体的な荒廃感(薄汚れていて清潔・清涼感が隅々に行き届かない)や、時に居住者が非協力的(奉仕性が生まれてこない環境)になり、粗大ゴミの放置やルール違反、法的点検の不参加等が目立つというスラム化の予兆を感じることがあります。

売っていた手ぬぐいです。

 マンションの建築や設備、法律や会計等については多くの情報があふれています。しかし、場合によっては中古マンションの購入の決め手になるかもしれない管理員さんの情報については皆無です。
 売買時の重要事項説明書でも管理員の勤務形態「日勤」と二文字だけなのは、一生の買い物をしようとする顧客に対してあまりに不親切です。
 業界が利益にならない取材や情報提供を怠っていることが残念です。

 Aマンションの理事会の終了後、太田記念美術館に立ち寄ってきました。
 マイナーな美術館なので空いていると思ったのですが、8/29日曜日で企画展の最終日ということからか、ゆっくりと無言で移動する動きながらも少し密でした。
 9/4から「没後160年記念 歌川国芳」展が始まりました。
 一足先に手ぬぐい等をお土産に求めました。柄は以前紹介した国芳の「金魚づくし」です。
 松尾好朗

『其まま地口猫飼好五十三疋』 歌川国芳






「弱き者の戦い」

 最近、マンションの専門家といわれる方が、コロナ禍での管理組合活動において三密を避ける方法の一つとして、オンライン総会・理事会と盛んにはしゃいでおられます。役員や管理会社のフロントは安全面でメリットがあるのですが、現場で人に接し、人が触ったモノやゴミに触る仕事の清掃・管理員について、感染予防のアイデアを出せる専門家は皆無です。
 オンラインの方法等は、すでに自然発生しているので、マンションの専門家が今更騒ぐことではありませんね。

https://www.nasjonalmuseet.no/en/collection/object/NG.M.01867
ムンク《スペイン風邪にかかった自画像》1919年

 感染防止には、私は時短が手っ取り早い方法かと思いますが、それどころか「取っ手は、管理員に1日3回消毒させています。」等の掲示をよく見かけますので、管理会社(管理組合)は反対に管理員の仕事量を増やしてしまっています。
 この時節、清掃・管理員を募集すれば応募はいくらでもあり、使い捨てでよいという考えで目を瞑っているのではないでしょうか?原発事故の時にホームレスを集め、高給を払い現地で危険な作業をさせたのとよく似ています。似ていないのは管理員は高給ではないところです。(笑)

 一般的なマンションで、管理員が3連休した時は、マンションのゴミ置場がどのような状態になっているか、居住者は分かっています。今、仕事を失った人を清掃・管理員に採用しても、社会が落ち着くと必ず転職されてしまうのは分かりきったことです。

 私がアドバイザーをさせていただいている自主管理のマンションでは、新型コロナウィルス感染が始まった頃から、清掃員の負担が明らかに増えているため、理事会は清掃員への支払いの増額を予算化しました。言葉での感謝も必要ですが、本人が不安・不満を持って働く中、「理事会はちゃんと見てます。」と対価により評価をすることは、今できる最高のねぎらいだと思います。

https://munch.emuseum.com/en/objects/2858/selvportrett-etter-spanskesyken
ムンク《スペイン風邪後の自画像》1919年

 象徴主義/表現主義 エドヴァルド・ムンクの《叫び》は1893年に描かれ、1919年(56歳)に、スペイン風邪になった自分の姿と回復した自画像を描いています。
 見るからに体も心も少し病んでいるように見えるムンクは、実際は感染しておらず、パンデミックの中で自分の思い込みでなかったのかという説もあるようです。
松尾 

これを着て外を歩けますか?

 知人のAさんは繊維業界一筋で定年退職され、体が動くうちに異業種を経験したいと、マンション管理員の職に就かれました。
 仕事内容に問題はありませんが、服飾も扱っていたAさんにとっては、管理会社が支給したユニフォーム(制服)のセンスの悪さに驚かれたようです。しかも作業用にしては生地の品質が疑問で、デザインはどこかの国の革命の服を連想するものでした。

パブロ・ピカソのバスク柄シャツ

 あなたはこれを着て外を歩けますか?とフロントに質問したところ、他の場所の管理員がこれを着ているのをあまり見ないとのことでした。
 Aさんのように一つの業界で定年まで勤め上げた人は特に、経験とプライドの中でも節度を持って物事を考え行動されます。
 これまでとは全く違う世界に入り、期待と不安の中、都落ちならともかく、社員も着ないような制服を与えられて、「囚われ人」になってしまったような気分だったと思います。

 別の管理会社では、管理員がどこにいるかよく目立つという発想から、制服の上着を鮮やかな黄色に変えたところ、居住者から「ヒヨコが歩いてるみたい。」、「大きな保育園児か?」等と不評でした。
 一方的な考えで「異物」を持ち込むと、マンションによっては、その建物の雰囲気と全くマッチしない場合があります。本部機能がある組織は押し付けではなく、調和を十分に考えてないと現場には受け入れられませんね。

 今はユニフォーム(制服)というより、その文化的な思考を含めた衣装という扱いでコスチュームと呼ばれるようです。
 管理業界が企画会議にデザイナーを入れる時代は望めませんが、管理会社のオジサンのセンスで一律に決めるのではなく、目的のマンションの建つ街の個性、居住者が意識するグレード、管理員の個性等を考えあわせたコスチュームを考える時代です。
松尾